電気ポットを恒温槽にしたい #1

■はじめに
 捨てる予定だった電気ポットを改造して小さな恒温槽を作りたいと思っています。制御基板のマイコンArduinoに換装して好きなファームで動作するようにしたいので、まずは回路読みからスタートです。
■分解
 使う機体はタイガーマイコン沸とうポットPFG-B(1990年製)、底蓋を開けると基板が出てきました。基板の第一印象は、トランスもレギュレータも見当たらないけどマイコンの電源はどれが作っているんだろう?です。家電の回路はコストを抑えるための努力がされているので、トランスもレギュレータも省かれたのでしょう。どうなっているのか回路を追うのが楽しみです。f:id:jun930:20201213184542p:plain

 基板を取り外してさらに掘り進めると、お釜の底が出てきました。電源ラインに152℃の温度ヒューズがあり、空焚き状態になっても電源が切れるようになっています。真ん中にセンサーらしき物があり、ネジを外してみるとシリコーングリスでお釜の底と熱結合されています。テスターを当てた感じからNTCサーミスタと思われます。そして手前に820Ω7Wのセメント抵抗、端子台経由でヒーターへの配線伸びています。このセメント抵抗は何に使うんだ?

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■回路図を起こす

 回路図を書くために基板の両面画像を半透明にして重ねました。

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 以下は重ね画像と現物を確認しながら作った回路図です。

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 ダイオードの型番やツェナーダイオードの電圧が一部不明です。また、Q1,2,3のN411FはBJTのマークになっていますがデジトラと思われます。トレースのミスはあるかもしれませんが、回路図のお陰で動きは想像ができるようになりました。

■驚きの電源回路

 分解当初に疑問であったマイコンの電源も独特の実装になってました。マイコンの電源は回路図上のTPと書かれたラインになります。これは交流100Vの入力ライン(TA)に接続されたL1(値不明)の出口に直結されていました。マイコンが100Vの波に乗っているイメージです。この波に対して5Vの電位差を作っているのがツェナーダイオードのD7とTR1になります。D7がTP - 5.9Vを作りTR1がGNDを吸うことで約5Vの電位差を作っているわけですが、リニアレギュレーション回路ですから100Vとの差の95Vに対して、マイコン回路で使用した電流を掛けた分のエネルギーを捨てないといけません。TR1(2SA1309)のコレクタ損失は0.3WですのでTR1にお願いしたら丸焦げですし、そもそもVceoもオーバーしています。この問題を解決するのがD6です。Vceoを抑えてエネルギーを捨てる役割を後段(TSライン)に送っています。TR1のコレクタの先はTSと書かれたラインでCN3経由で外部のセメント抵抗に接続されていました。セメント抵抗はお釜の底経由でポットの水を温めD1で整流されてもう一本のACライン(TB)に帰ります。実に理にかなった斜め上発想の電源回路でした。マイコンの電源は100Vを直に定電圧したものでした。そして放熱先がポットの水だったわけです。

■つなぐと危険
 この電源実装はCPUを換装したときの注意事項になります。CPUはArudinoにする予定ですのでシリアルケーブルでPCに接続して使おうと思っていました。上記の通り電気ポットのマイコンはほぼAC100Vラインなわけですから、マイコンのピンに接続するということは、USBシリアルケーブルをAC100Vに差し込んでいるようなものです。電池駆動のノートPCだったら壊れないと思いますけど、人間が感電するかもしれませんし、フレームアースされたPCと接続した場合はPCが壊れる可能性があります。基板にトランスが見当たらない段階で薄々は感じていましたが、PCとの接続には絶縁インタフェースが必須になります。
■注意点その2

 このポットは通電している限りセメント抵抗が常に発熱します。半波整流ですので半分を使っているとして、実効値の半分の50V - 5V = 45Vを820Ωで消費すると平均的に約2.5W分のエネルギーでお釜を温め続けます。お釜は魔法瓶ではありませんし隙間から大気と通通ですので、周りをほんのり温めます。恒温槽として使う場合、ヒータを完全にOFFできないので微妙な温度調節は期待できないかもしれません。


つづく